thunder


ナランチャは退院してポルポの試験を受け、無事ブチャラティチームに入団した日の話。まだ部屋がなかったので、フーゴと同室で寝る事になった。

食事をしてから二人はあまり話をしなかった。フーゴが何を聞いてもナランチャは首を縦か横に振るだけ。先にナランチャにバスルームを使わせて、消灯。春の気配を間近に感じる夜。窓を軽く開けて、風通しを良くしておいた。ベッドに入ってすぐにナランチャの寝息が聞こえてきた。初日だから緊張しているのかと思ったがそうではないようだ。

「寝る前にもう少し話ができるかと思ったのに…」

眠ろうとするとますます眠れない。横たわってる分、体の疲れは取れてしまう。

「ナランチャ…寝てるの?」

答えはない。疲れてるんだな。しょうがない。清潔な布団で眠れるのは彼にとってどれくらいぶりなのだろう。外に出ると時折見かけるので、前から気になってはいた。食事を兼ねた打ち合わせに向かう途中、彼が路地裏のレストランの残飯をあさっていた時はいよいよ見かねて、フーゴはその野良猫もどきを一緒に連れていった。

背中を向けて眠っているナランチャ。少し癖のある真っ黒な髪の毛。タオルケットがなぞる細い体。

どれくらい時間が経っただろう。ふいにナランチャが叫んだ。手足が跳ね、体が布団の上でのけぞる。慌ててかけより、彼の名を呼ぶ。触れた体は冷えきってひどく汗をかいていた。

「どうしたんです、ナランチャ。一体?」

ナランチャの目半分とじられていて、フーゴをとらえていないようだ。
「ママ…」

喉の奥から引きつるかすれた悲鳴。
一瞬ギクリとする。フーゴはすでに無関係だと処理した単語。たしか彼はまだ10歳の頃に母親をなくしたはずだ。
「違うんだ。怖かったわけじゃないんだ。行かなきゃとずっと思っていたんだ!」

震えるナランチャの肩に腕をまわして、ここは自分の部屋だと告げる。乱れていた呼吸がようやく落ち着き、どうやら我を取り戻したようだ。

「フーゴ…。俺、夢を見てたみたい。なんか言ってた?」

「いえ、特に何も」

「ならよかった」

目に涙が浮べたままだ。ハンケチを差し出すと、ナランチャは乱暴にタオルケットを顔に押し付けた。余計な事をしてしまったかな。フーゴは少し焦った。

「傷、あるから。」

「この間の手術のですか。」

「うん。フーゴが見つけてくれたから軽いうちに治せたけど、本当は俺…もうどうにでもなれと思っていた。もっとひどくなればいい。母さんの死んだ目の病気が、俺にもやってきたんだ。これは罰だって。」

「そんなことはないです」

「俺、ろくに見舞いに行けなかったんだ。行くたびに、母さんが衰えていくのがて、こわくて…」

華奢な体にだいぶ無茶を背負い込んでいる。10代でパッショーネに入ってくるのだから、消す事のできないしみが幾つかあるのは当然といえば当然か。ハンカチも使わず静かに泣いている目の前の少年が痛々しくて、肩を支えて抱きしめた。大分体は暖まってきている。

「だけど、あなたの目とお母さんの病気は何の関係もない。認めるのは勇気の要る事です、ナランチャ。」

ひとしきり泣いた後、両腕をフーゴの首ににまわして軽くくちづけをした。しばらくそのまま動かなかったが「ありがとう、フーゴ」と言うとすぐに自分のベッドで眠ってしまった。

僕は相変わらず眠れない。もう4時16分だ。ゴミ収集車までやってきた。できれば僕の雑念も追い払ってはくれないか。