HAND IN HAND
春は終わりかけていた。決して終わらない夏に向かって。
下校する高校生達の姿がブチャラティの目に入った。サッカーボールを蹴りながら、両親や兄弟のいる家に帰っていくのだろう。
「あ、あいつ」
「あいつギャングって本当かよ?俺らとそう変わんねーじゃんよ。どうせ下っ端だぜ。」
「学校にも通わねえで何やってんだよぉ。」
大きな笑い声。
ボールが外れて、ブチャラティの前に転がってきて止まった。
黙って蹴り返すと、礼の代わりにトマトと卵が返ってきた。
今日はペリーコロさんの家に行かなくては。
「おい、あんたイイのか?」
1人の少年が道を塞いだ。
すこし早めに着替えた半袖のシャツから、腕がまっすぐに伸びていた。
「さっきのこと?」
「少しは反抗すればいいじゃないか」
グレイッシュブルーの瞳がまっすぐにブチャラティを見据えている。
「僕に腹が立つの?僕は腹を決めている。奴らが何を言おうと大したことじゃあない。」
「だからって、言われっぱなしなわけ?1発くらいぶん殴っちまえよ。もし本当に君がギャングなら。」
ブチャラティの顔がやや強ばる。
「…ってのは、本当のギャングってのは、一般人には手を出さないのさ。もっとも家族や友達を侮辱してくるなら話は別。」
やや気押されたのか少年は「ふぅん…すげぇな。」と呟くと黙ってしまった。
「ねぇ、君はハイスクールに通っているの?」
「あ?ああ。オレ、大人になったら警官になりたいんだ。だから学校で勉強してる。」
「勉強かぁ…」
「うん。オレ、ネアポリスが好きなんだ。ローマにもどこにも行かないで、年とってもずっとこの街にいたい。」
「僕も。」
露店でパニーニを買って頬張る。バジルとトマトはどうしてこう相性がいいのだろう。チーズで口の中を火傷しなければ最高だ。
「でも今の警察は賄賂まみれで、困っても相談できない。」
「う、ん…」
分断された過去がチラつく。あれ以前の事はほとんど憶えていない。
---夜中の病院。
命をつなぐ発光ダイオード。冷たい床。ベッドの脚。
僕はミルクもこぼさなかったけど、ナイフを持って立ってた。
両手があたたかく濡れて、僕は---
「オレが警官になったらそういうのは絶対バツ!」
少年は胸の前で両腕を交差させてみせた。
「警察にいったら余計困るなんて風にはさせない。…それに、制服かっこいいだろ」
ブチャラティが高く声をあげて笑った。
「君…なんて呼んだらいい?僕はブチャラティって言うんだ。」
「オレ、アバッキオ。レオーネ・アバッキオ。」
「もし君が本当にギャングだとしたら、将来のオレは見過ごす訳にはいかないな。ひょっとして敵同士?なんてー」
「そんな訳ないって」
ブチャラティはくすくす笑うと、手を振って坂道を降りていった。夕闇はまだ先なのに、ブチャラティの姿はすぐに見えなくなった。今からなら、まだ夕飯には余裕で間に合うだろう。
また会えるといいな。
---未来は僕らの手の中。