COME Bath with ME


ナランチャはクタクタだった。今日一日街を歩き回った上、何の結果も出なかった。あまり疲れていたので、今日はもうそのまま寝ることに決めた。ベッドに寝転がって、ビデオを再生する。映画は筋と登場人物がよくわからないので滅多に見ない。しかしこの間、寝ながらビデオを見ると、目の動きでものすごく気持ちよく眠れるのに気付いた。大発明だよと言ったら、アバッキオとフーゴに散々馬鹿にされたっけ。

ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴る。ノックの後に現れたのはフーゴだった。あれっきり勉強も教えてくれなくなったし、チームでの打ち合わせ以外で顔を合わせていなかった。どうしたんだろう。
「や、ナランチャ、起きてました?」
愛嬌のある目で笑いかける。
「今寝ようとしてたんだけど」

「ああ、早速ビデオを観てるんですね。有言実行、素晴らしい事ですナランチャ。」
フーゴはベッドの下に座り込み、軽く断るとクッションを敷いている。眠気は醒めてしまったけど、気まずくて寝てるふりをする。
「もう今日はお疲れなんですね。眠くならないビデオを持って来たので、気が向いた時にでも観てください。」
「あ、うん、そいじゃ。俺今日風呂入る気も起きないんだ、わりぃ」
「え?」

驚いたような顔をすると、フーゴは疲れてる時こそお風呂は重要ですと力説し、疲れを翌日に持ち越すのと持ち越さないでは大違いだと、バスタブにお湯を張った。

勢いのよい音が響くと、フーゴがいるにもかかわらず、心地よくうとうとしてきた。いきなりやわらかいものが唇に触れた。
「ん…」
間近に見るフーゴ。
「あー、やっぱ本当だったんだ」シャツの上からフーゴを抱き締める。実際に抱き合うと体が邪魔で、なんだか切ない。
キスされると思って唇を軽くつきだすと、フーゴは顎を引く。
「え…」なんで?
フーゴが微笑んで、僕の顔にかかる髪をぐっとあげる。つられて無防備になった耳たぶの下を嘗めあげられた。
「ん」
「キスしてほしかった?」
真顔で聞いてくる。してほしくないワケないけど、からかわれてるのかも。悔しくって布団にくるまって顔を埋めてしまう。「ねぇ、教えてくださいよ。僕はずっとナランチャに会いたかったよ」「…ほんと?」「うんナランチャ大好き。かわいいっ。」「なんだよーっ」不意打ちでキス。さっきまで視覚でしかなかったフーゴなのに今はあたたかくぬめる、触れ合う一点の触覚になる。感じられるのは動くそのやわらかさだけ。軽く舌を吸われて、僕が退いてしまうと、首の後ろをきゅっと抱えられて、雨。気持ちよくて声が出てしまいそう。キスしてほしかったんだよなあ、って自分の意識が崩れていく。僕はこのまま5時間でもキスしていたいよ。朝焼けまでのキスが、僕をきっと崩していくんだ。触れられてほしい場所に触れられてるのかさえわからない。僕は体を重ねることで、心も重なるはずだと、いつも幻想を抱いてしまう。そんなのあくまで独りよがりの、嘘だ。滅多に人は好きにならないのだけど、この人は僕にとってのとっておきだと思うと、会ってどれくらいかとか、どんな人かなんて気にならなくなってしまう。ただ僕と一緒にいてほしい。その勘ははずれたことはないはずだけど、二度と会えなくなった人もいる。イメージからの相違点を認め続けて、僕はひたすら受け入れる。それは僕がギブアップするまで。そしていつも僕はヒリヒリする。

もうダメだ…。「ねむるんじゃなかったっけ?」「むー」「お風呂もちょうどいい頃です。一緒に行こう」「えっ、…うん…」そういえばそうだよね、なんだか楽しみ。

お湯が浴槽いっぱいに溢れていたので、洗面器を使ってザバザバお湯を浴びた。フーゴがいきなりお湯をかぶせてきたので、僕も頭の上から思いきり掛け返してやった。「二人で入るのに丁度良くなったかな。ユニットだから気をつけないと大変な事になります。」この人は一体なんなんだろう。「今日は結構動き回ってたでしょう。」「うん」「僕に洗わせて♪」石鹸を直接肌に擦り付けられ、両手で泡立てる。胸元首筋、脇はくすぐったくて、おなかはもっとくすぐったくて、ナランチャも石鹸を手に取った。おれも細いけど、フーゴはもっと細い気がする。「筋肉ー、筋肉付けたいなあ」「それなら食事の内容と運動のタイミングをしっかり管理しないといけませんね」ああ、フルーツばかりではダメだ。「でもナランチャはそのままでも全然いいと思うけどな」お尻と腰骨の上を指先でなぞり品定めするよう視線を這わせる「ほら、足をあげてくださいね」足の指の間も指先で丁寧に洗ってくれる。ナラは緊張と戸惑いがすっかり消えたようだった。「もうこのくらいでいいかな」シャワーが顔にかかって、全身の泡が流れていく。疲れと汚れ。

「ナラーンチャ」ウエストに腕を掛けて見上げてくる。

カラダカラカラダヘ。

オナニーよりずっと気持ちいい。なんで?バスタブのヘリに腰をかけて、僕は膝立ちをして顔を埋める。もどってこれなければそれでいい。だからその体を全部みせてよ。