--誰か絞ってジュースにして その2--
また目が醒めたよ。


「ここじゃなにもできないだろう。もっと奥に移りたまえ」
ポルポは二人を軽々と持ち上げて、寝台にドッサとおろした。

〜フーゴは確かにかわいらしい。しかし無理矢理は絶対にイヤだとブチャラティは躊躇う。
ブチャラティの胸中を察してか、ポルポが
「一応フーゴ君にも確認を取るといい」

「大丈夫?今からする事平気かな」
「はい・・・大丈夫。でもちょっと、怖いです」
顔を赤らめうつむくフーゴを腰ごと抱き寄せた。
「まさか俺が相手するとはな。言っておくけど謝らないぞ。謝るんだったら初めからしなければいい。やっといて謝るような下衆じゃあねえ。怖いことはしない。それとも俺とはイヤか?」
首を振るフーゴ。

「君、俺より4つ年下だよね。ならもう一人でしてるよな」
フーゴの目が見開かれた。口の形はハイと動いたが、声にはならない。
「なら俺がしてやるだけだ。目を閉じてればいい」

フーゴは戸惑う。
命令れて裸になって僕を抱く。
彼は一体何者なんだろう。

セックスに対してフーゴはかなり夢見がちだった。
好きですと告白をしてから落ち葉の石畳を歩きながら手をつなぎ、相応しい年齢になったらお互いの意思を確認して、ベッドにはいる。初めての相手はやっぱり相手も初めてがいいな、などという教科書風味のロマンチスト。時折恥ずかしくなる事もあったけど、自分にとってそんなのまだまだ先のこと。たまに耽る分には誰も咎めやしないだろうと安心しきっていた。女の子に声は掛けられるけど、自分が好きにならなければ動く意味はない。とりあえず目の前の課題、勉強をこなしていった。全ての動きは法則で説明できて、僕の心の動きにあまりにもマッチするから僕は物理に興味を持った。決して法則が先にあったわけではないのに、まるではじめから法則があったかのようだ。これはどう説明すればいいのだろう。しかしすべては例外を孕む。

-----僕は例外なんだろうか

思い上がりだと懸命にそんな考えを振り払おうとするけど、周りは僕をちやほやして、本当の僕を見てはくれない。知りもしない。見せてやろうと僕を駆り立ててくれる価値のある対象もいやしない。
しかしその夢は容易くうち破られた。あの教師・・・。
フーゴにとってその悪戯は汚点と認めることすらおぞましく、忘れた忘れたと言い聞かしていたが、秋の空が高まる頃になると、きまってよくわからない不安にとりつかれた。指を動かすことさえ恐ろしく、モニターに向かったまま、すわりこんでいた。ただ吼える。プライドの檻の中。流れる血もないんだろう。修復できない衝撃。そんなものがもしまだあるのなら。それからフーゴは誰とでも寝た。ちょっと声を掛けて、甘い言葉を囁けば、かわいくて嬉しくて気持ちいい。それでよかった。

軽めのキス。目を閉じて初めて粘膜が触れ合う。髪を後ろに撫でつけた後、今度は舌を絡めて長い。
強ばっていた体から力が抜けて、抱きやすくなった。
「キミがイヤなことはしないよ。」
ブチャラティの右手はフーゴの左頬、左手は背中を手のひらでぐっと押さえこむ。
「無理矢理じゃないよな。フーゴ。」
引っ込んでいた舌だったが、ブチャラティの指先が肩、胸をなぞり、脇腹までおりたら、おずおずと突き出された舌の先同士が触れ合っていた。

ベルトを外し下着を手前に引きおろすと、フーゴのペニスは撥ねて元の位置に戻る。
これから仲間になるってんだろう。フーゴの様子を見て、ブチャラティは清々しい気分になった。
「受け入れてるだろ。気持ちよくなろうぜ。それともまだセックスまではイヤなのかい?」

ブチャラティの手が直接触れるのと同時に、歯の裏をなぞられ、フーゴは声を漏らしてしまう。
上唇をはさむように吸われ、唇の裏をゆっくりと這う。
柔らかさが、体を熱く溶かして再び凝固し始める。

剥けきっていない若いペニスはわずかな刺激にも反応し、ポルポはほくそ笑まずにはいられなかった。
青年になりかけのブチャラティに、戸惑いながらも自ら身体を開いていくフーゴ。
素質は充分だ。新入りの興奮も相当だが、ブチャラティの方がそれ以上だろう。

はやまったブチャラティは自身に手を添え、フーゴにあてがえ挿入しようと試みる。
「あっ・・・!」
腕を伸ばし突き飛ばしてしまうフーゴ。

「これこれちょっと気がはやいんじゃないかね、ブチャラティ」
「すみませんでした」
「気持ちは分かるよ。痛い程にね。若さとはそういうものだ。」

「フーゴ君のペニスを舐めて差し上げなさい」

「え、そんな事しなくて平気です」
「俺は君をきらいじゃあない。だけどまだ好きでもない。何度も言わせるな。君は拒むな。NOという選択肢は存在しないと言っただろ。拒むんじゃあねえ。」
ブチャラティの口腔がフーゴを包み込む。
こわばりは舌でなぞれば一層反り返る。
嬉しそうに吸い付くブチャラティと、もはや身動きのとれないフーゴ。口だけでその気にさせられて、はちきれそうで痛い。

「舐められるの好き?」
すいすいと口の動きを早める。何の抵抗もないなめらかな快感の上下動。
首を反らしたフーゴの額をつたう汗。
硬直した身体。
苦い潮。
放出。

「すみません。僕・・・」
「一人部屋じゃないから溜まっちゃってた?」
ブチャラティは口元を手の甲で拭った。
「俺は全然まだなんだぜ」
正直口でイッたのは初めてだった。
何となく入れて何となく出すなら、今までは全部そうだ。
この人はいったい何なんだろう、と思う間もなくブチャラティがフーゴの身体にのしかかる。
「ちょっと抵抗あるかもしれないけど、いじらせてね」
フーゴの足首を掴むと肘で膝裏を押さえこむ。
「やっぱ体やわらかいねェー」
声をあげてブチャラティが笑う。

左の親指と中指で拡げて、右の中指をあてがう。
「丸ごと入れたりはしないから・・・さ」

----指先でほぐして柔らかくしよう。彼はまだこっちは初めてなんだから。

唾液をたっぷりつけて、手のひら全体でしごきあげて硬さを楽しむ。ゴリゴリする感触がいい。
「力、抜いて。体ラクにしろよ」
困ったような甘い声をあげるフーゴに、ブチャラティの奥がチリチリする。
わからないものはわからないままほっとけ。
ポルポの命令でかなりいいコイツとやれるんだ。

「こういうの嫌いじゃないでしょ。」
中指が割り入り、付け根まで入った。
「おとなしくしてな」
フーゴは息ができない。抵抗しようとすればもっと苦しくなる。

ハチミツのようなボトル。適当にひねったティッシュの蓋。
しょっちゅう使うから、乾燥なんて気にする必要ももないのか。
ポルポがボトルを手に取ると、ユラユラと回転させて2人の上にジグザグにローションを振りかけた。
既に全裸のブチャラティ。キラキラしたローションは太くなったり細くなったりしながら静かに滴り、彼の髪からはじまり、頬をつたい、こらえた呼吸と共に顎から落ちて大腿に至った。ポルポは手のひらできっちり塗り込み、彼のペニスをよくできたキャンディバーに仕立て上げ、残りのローションはフーゴの一カ所に集中させた。デコレーションストロベリー。

「ほら、入れてごらん」
ポルポが手を添える。
「ありがとうございます。やりやすくなります」
「フーゴ君も随分筋がいいね」
「痛くはしないから大丈夫。ただし痛くないのは俺だけど」

「あッ、やぁ-------っ」
「何が?」
「まださっき会ったばかりなのに」
「あハ。これから先、家族以上の家族になるんだぜ、俺ら」
両手の平で仰向けのフーゴを押さえつけ、メリメリと侵入させる。
「ン-----------ッ」
紅潮した顔が苦痛に歪む。

「頭の部分だけ、まだ。」
「ムリ、ムリ、ムリ」
「我慢しな」
ブチャラティがフーゴの両腕を頭の上で捕らえる。

少しずつ割り入ってきて、痛みはただひきつる熱さとしか認識できない。ブチャラティと苦しさが少しずつ割り入ってくる。ふと楽になったかと息を吸えば、まだ覚えのない部分にギッチリとねじこまれ、普段意識したこともない身体感覚にフーゴは嘆く。膝が外れて肩から落ちる。膝を寄せようと瞼をあければ、半分とじられたブチャラティの瞳はまっすぐに僕を見すえていた。時折洩れる彼の吐息と額の汗が僕の心に突き刺さる。表面上の態度は決して崩さないのに、僕の身体に伝わってくる熱い塊。

「一番キツイ部分は終わったよ。」
フーゴの呻き声が可愛らしい。
「初めに一番広がっちゃうからキツイよね」
放心状態のフーゴに、言葉を処理する能力はなくなっている。
「入れられてるお前の顔、いいね、最高。」

後はもう簡単だった。一気に入ってきて、彼はうってかわって冷徹で、触れ得る限りのあらゆる粘膜に、自分のカタチを覚え込まそうした。身体の真ん中を突き抜けられて、フーゴは叫ぶ。モノの様に扱われるのも嫌ではなかったし、手慣れたブチャラティのおかげか、さっきまで収まっていたものが出てしまうゾクッとする感触をフーゴは楽しむことができた。あらゆる場所で精液を受け止めて、最後は口で飲み干した後も、フーゴは愛おしげにブチャラティを舐め上げ続けた。

血の契約は終了。ポルポはいたって満足し、僕は晴れてパッショーネの一員になった。

時折僕は考える。ブチャラティはこの男の指示でなく、純粋に僕を抱いてくれただろうか。あの後も何度か体を求められたが、それは決してそれ以上でもそれ以下でもなかった。彼は今でもあの時の僕にしたように、誰かを抱いているんだろう。そう思うと僕はたまらなく切ない。ブチャラティは皆にやさしい。彼は皆にどうでもいい。僕は彼のこと、どうでもよくなんかないのに。大事な何か、決して触れてはいけない部分。そのためだけに彼は呼吸している。生きている。それ以外の彼は実に希薄だ。崖から真っ逆様に落ちていく人の静止画像のようだ。写真の中の彼はまだ生きているけど、限りなく死んでいる。

「やる時は、どんなヤツでも、そいつと死んでいいって気持ちになってる」
「誰でも」
「そうだな」
「死なないくせに」
「死んだって動くかもな」
「僕、あなたがよくわからない」

だけど僕は自分の気持ちが分からない。彼に抱かれると僕の心は体と仲良くなる。オレンジ色の切なさは身体からはみ出して、部屋中に広がってゆく。身体と心は一緒なんだろうか。ただひたすらに気持ちイイ。その快楽に身を委せたい自分なのに、妙に縮こまって、彼を疑ってしまう失礼なやつだ。直感だとかそんなもの信じたくないのだけれど、もし信じるとするならば、僕はこの人が好きなのだろう。どこまでも連なる自己否定。僕に話は通じない。口は開かなくていいから、とにかく僕をやり尽くして。そして僕に飽きてさっさと他の人のところへ行って。そうすればようやっと僕は泣くことができるから。





ハルシオンバード。
あの青いカワセミ。

水面すれすれをすべっていく
あの青いカワセミ。

今だけの春の海。
たとえ今だけ、季節は遷ろう春だとしても
この春の海に溺れたい。

空に堕ちていくハルシオンバード。




はじまりはカラダからだった。
僕は性的な免疫はすっかりできあがっている。
注意書きなど存在しない。近寄りたいなら覚悟しな。
それが嫌なら僕の側に近寄るな。