HEAVY MANNERS

ver1.00

やらなきゃいけないことは沢山あるのだけれど、僕たちはいつもぼーっとしていた。外の風は強いけど、部屋の中は音もしない。書類の整理だの、面倒な申請だの、全部ほっぽらかして、僕はナランチャの部屋に遊びに行く。そして、彼のペースにのみこまれる。

「フーゴ?何?」
「別に特に何もないですよ。またゲームやってるんですか?」
「うん。フーゴもやらねぇ?」
「僕はいいです」
「ふーん。面白いのに」

僕が来てもゲームに興じるナランチャ。僕はちょっとだけというのができない。やる時は全部やるし、きちんと計画を立ててから物事を運ぶし、ちょっとでもうまくいかないのは許せない。それに僕は、ゲームが下手だ。

「少しだけやってみろよ」
腕を付いて振り向くナランチャ。
「じゃあ、少しだけ」
「出来なかったら変わってやるぜ」
「そんなことないです」
「シシシ!」

2分もたたないうちにコントローラーは床にたたきつけられ、フーゴの機嫌を取るためにナランチャは上着を羽織った。すべすべの、皮のいい匂い。かぶる部分がフサフサしてよく似合う。

「おいしい店、好きでしょう?」
「あたりまえだって。またなんか新しいのできたのか?」
「そんなたいそうなのではないんですけど、結構いい感じです」
「へー、へー、何?なんの店?」
「ドルチェ」

ヴィータ。甘い生活。シロップ漬けにして、息ができなくなるほど。

めっきり寒くなって、空が高い。カロコロと靴の音が小さく響く。嬉しそうなナランチャを後目に、足早にフーゴは歩く。こういう時期は喉の奥が痛くなる。ナランチャは虫を見つけたとはしゃいでいる。街を行き交う人の中で、ナランチャだけが目印として色付く。

----山標。
示される距離。
道程はあるのに、どうして僕は辿り着けないんだろう。
目の前にナランチャがいて、一度でいいから真正面から抱きしめたいと思う。
僕にできるのは、軽くじゃれて蹴りを入れてくるナランチャに、ふざけて打つ真似をしたり、ぬいぐるみを投げてよこすだけだ。僕は本当にナランチャの正面に立ったことがあるだろうか。目と目があっても、反らさないでいられるような距離感。ないものねだり。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
僕は指を2本立てて、そのまま店の奥に分け入っていく。
支配人が出てきて、ウエイトレスをカーテンの奥に連れ込む。公にはしていない・・・というよりできない事だけど、やはり僕らがパッショーネのメンバーで、ブチャラティと一緒に働いているらしいという事は、どうにも隠せない事のようだ。店同士の繋がりもあるだろうし、話す内容がごくごく内密なものとはいえ、そのたびにチームで貸しきりにしていたんじゃ怪しまれたってしょうがないぜ。まぁ、そのおかげで僕も白昼堂々とお酒も飲めるしタバコも吸える。酒はシードルだけどさ。一度滅法強いアルコールをブチャラティに勧められたけど、たまったもんじゃなかった。なんだかんだいったって自分は未成年だと思い知った。まぁ、やることはやるけど。

「この鶏肉と栗の煮込み料理がおいしいですよ。ハーブもきっと好みです」
「へぇー。キノコ、キノコも入ってるんだね。キノコは全部好きだけど、ボルチーニ茸はキノコの王様だな」
「好きですよね」
「知ってんの?」
「そりゃ一年近く一緒にいれば、ナランチャがボルチーニ好きだって事くらい分かりますよ」
「うわっ、意外だぜ、フーゴが・・・俺が何を好きか知ってんのか」
「大体ですけどね」
「えへへ」

こんな時間がいつまでも続く事をフーゴは願うのだけど、ナランチャとテーブルを共にすると些細な事で苛立たずにはいられなかった。楽しい時間を台無しにすまいとフーゴは堪えたのだが、まるっと半分のまま供されたグレープフルーツを、ナランチャがジューサーで搾った後に、そのままくわえて削り取るように食べたのは我慢ならなかった。それだけではなく、もう中味のないグラスにストローをつっこんで、みっともない音を店中に響かせるのはどうにも耐えられない。

「ナランチャ、そういうのはよしてください」
「何が?」
「何がって・・・」
「悪ぃ、俺だけで食べちまって!欲しいなら言えよ〜」
皮までベコベコになったグレープフルーツの残骸を差し出されて、俺は切れた。

結局ナランチャは頬から流血しながらしっとりとしたチーズケーキを、僕は熱々にとろけるチョコレートケーキを食べた。ヤツはシュークリームを注文してたけど、席を外している間にこっそり注文を替えておいた。馬鹿だから気付く事はないだろう。

僕たちは店を出た。

「フーゴ・・・なんで怒るんだよ?」
「別に・・・あなたがちゃんとしないからいけないんでしょう」
「おれよく知らねぇんだよ。ちゃんと言ってくれれば、俺治すよ!」
「言ったって聞かないじゃないですか」
「決めつけないでくれよ、フーゴ!」

バシィ!

「・・・ッッてーな!何すんだよ!」
「・・・・・・」
「食事の時はともかく、今オレ何もしてねえだろ!」
「・・・ごめん」
「そうやって謝まるけどさぁ、なんなワケ?!」
「ごめんなさい」
「勉強だってさぼってねえし」
「うん」
「気ィ、付けようとしてるんだぜ!?」
「・・・たぶん、そうですよね」
「たぶん??」
ナランチャがフーゴの胸ぐらを掴む。
「フーゴ・・・テメェよぉー、こっちぃぃ、見ろぉー!」

耳の脇に指を差し込み、ナランチャがガッチリとフーゴを抑えつける。

「こっち見ろッて言ってんだろ・・・なぁ、フーゴ」
フーゴの瞳の底に微かに怯えの色が浮かぶ。

「好きだぜ」

ぎゅぅっとフーゴが目をつむった瞬間、ナランチャが覆い被さる。
避ければ入り込んでくる舌に身を任す。指の脇が汗でムズムズする。
「なぁ、フーゴ好きだろ?オレだってフーゴの事好きだぜ」
「あっ」
そのまま布団に転がり込んで、動けない二人。
力と力がぶつかりあって、本当はお互いに隙をうかがって攻防しあっているのだけれど、ひたすらに伝わってくる肌のぬくもり。髪を撫でれば舌触り近い。零れ墜ちる愛おしさに抗えず、フーゴはナランチャの背中を掻きむしる。衣類も全てはぎ取られ、あてがわれるナランチャの指に甘く痺れる。

「なぁ・・・」
「なんです?」
「オレが・・・ちゃ、ダメなんだろう」
「え?」
「オレが、店でみっともない真似しちゃいけないんだろう?」
「ん、ああ・・・」
「ならさあ」
ナランチャはニヤリと笑って、熱く指を根本まで挿入する。

「んっ、ぁああ−−−−−ッ!」
肩をすくめ、踵で躯を支えるフーゴを満足そうに見るナランチャ。
「へへ」
「こんなところにィ、指入れられて声出しちゃっていいわけ?」
「それは違ッ・・・!」
「違くねェよ、バ---カ」
悪戯に内壁を弄べば、フーゴは同じリズムで呻く。
「男にキスされてウレシがるのはいいワケぇー?」
「ごっ、ごめんなさ・・・い」
「ンあー?!」

「オレがストローで音立てるのはいけないんだよなぁ?」
「それは・・・・」
「ならいつも音立ててイッちゃうのはどこのどいつだよ!」
「あっあっあっあっ、あっ・・・・・!」
額を抑えつけられて、腰を上げてフーゴはナランチャをねだる。フーゴを襲う極度の緊張。
「分かってるよ、ナランチャ、僕だって!」
「やめらんねぇんだろ?」
「まずいことだとわかってる、でも!」
「フーゴ・・・」
「ナランチャァ」
「まずいとかまずくないじゃなくてさ、別にいいんじゃね?」
「いい?」
「オレは気持ちいいし、フーゴだってそうだろ?」
困ったようにうなずくフーゴ。
「ここにはフーゴとオレしかいねぇんだし、どっちも気持ちいいんだから」
「うん」
「もっともっともっとしようぜ」

その日、枕はクタクタになった。枕以上に僕もクタクタだった。
僕は頼まれ事をしていたから、そのまま地下鉄に乗った。珍しくナランチャもホームまで降りてきていた。扉が空気音と共に開き、僕は腰を下ろした。目を伏せたままでいたかったけれど、次いつ会えるだろうなんて心配に思う事はないくせに、僕は不安に堪えきれずに顔を上げた。瞬間ぶつかりあう眼差しに、彼の方が目をそらしたのを僕は覚えている。僕も目を落とし、再び上げるとお互いに生意気な視線はぶつかりあったが、発車のベルが鳴りホームはみるみる離れていった。


(04/010/27)